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Team3   社会活動支援・活力ある高齢者の研究チーム

No.1  スロージョギング®による安全かつ効果的な予防プログラムに関する研究

チームリーダー:上原吉就(スポーツ科学部教授、身体活動研究所)

スロージョギングとスローステップで高齢者の筋力や認知機能が向上
2017/09/29

福岡大学は、2009年に福岡県那珂川町と協定を結び、2011年度から3年間にわたって、町内の65歳以上の高齢者を対象に、スロージョギングやスローステップを用いた運動が筋力や認知機能に与える影響を研究しました。(Ikenaga M, et al. Eur J Appl Physiol. 2016.)

研究チームはまず、町の呼びかけに応じて参加を表明した高齢者1073人に対し、身体機能(筋力や持久力、バランスなど)、血管機能(血圧、血管の硬さ)、身体組成(筋肉量、脂肪量)、認知機能(物忘れの程度など)、身体活動量(歩数、活動の程度など)を測定、加えて、日常生活で気になることについて質問紙調査を行いました。これが"運動前"です。次に、2011年10月から2013年9月までの2年間、週1回の頻度で運動教室を開催し、福岡大学の研究員が、スロージョギングやスローステップ主体の"ニコニコペース"でできる運動を指導しました。教室の参加者には、教室で習った運動を自宅でも行ってもらい、1週間当たり180分を目標に、継続的に運動してもらいました。この運動教室には336人が参加しました。

そして、運動前と運動後を比較したところ、脚の筋力が15%、太ももの筋肉量が12%、有酸素能力(スタミナ)が11%それぞれ増加したことが分かりました。運動前に軽度の認知機能低下が見られていた17人では、運動開始後半年で認知機能が正常レベルに回復し、2年後も維持されていました。さらに、那珂川町の国民健康保険(国保)のデータを用いて、運動に参加した人(12人)と、参加しなかった人(47人)の総医療費を比較したところ、運動に参加した人では開始前に比べて平均10万円/年減っていたのに対し、参加しなかった人では平均35万円/年も増えていました。つまり、2年間継続的に運動することで、医療費が年間45万円節約できた計算です。那珂川町健康福祉部健康課長の日下部篤氏は「こうした研究結果を受けて、町では現在、65歳以上の方を対象としたステップ運動教室の開催や、ニコニコペースの運動を行うリーダーを養成するといった取り組みを続けています」と説明します。

見学した日はちょうど、町の保健センターで運動教室が開かれており、75歳から90歳までの男女10人が1時間のプログラムを楽しんでいました。参加者は「坂道や階段が楽に登れるようになった」「道でつまずいても転ばなくなった」など、運動の効果を実感していました。運動教室に参加した一人、梶本勝枝氏は、ホノルルマラソンに出場するほどの実力を付け、現在はリーダー役を務めています。今もスロージョギングをトレーニングに取り入れているそうです。指導員の古瀬裕次郎氏によると「ステップを踏みながらしりとりをするなど、体だけでなく頭も働かせながら飽きずに楽しくできるプログラムを工夫しています」とのこと。スロージョギングは、高齢者のコミュニティーづくり、ひいては町づくりにも役立っています。

田中宏暁教授のチームでは、那珂川町での研究結果を始め、これまでの研究成果をさらに発展させる形で、福奏プロジェクトの一環として運動・食事・観光を組み合わせた「ヘルスツーリズム」を展開中です。